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福岡地方裁判所飯塚支部 昭和55年(ワ)120号 判決

原告

諫山静刀

被告

河辺栄一

ほか一名

主文

一  被告河辺栄市は、原告に対し、金八五七万九六九一円及びこれに対する昭和五四年一〇月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告河辺栄市に対するその余の請求及び被告第一生命保険相互会社に対する請求はこれを棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告河辺栄市との間においては原告に生じた費用の二分の一を被告河辺栄市の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告第一生命保険相互会社との間においては全部原告の負担とする。

四  この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自三〇七七万八二二六円及びこれに対する昭和五四年一〇月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告ら)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  昭和五四年一〇月二六日午後一〇時三五分ころ、被告河辺が軽四輪貨物自動車(福岡四〇け七六〇)を運転して福岡県嘉穂郡穂波町太郎丸五三番地先路上を進行中、停車中の自動車に追突し、そのため、同乗していた原告が、頭部、顔面挫創兼異物、両手挫創兼異物、左下腿挫滅創、左第一趾、基節中足関節開放性脱臼、左第二、三、四中足骨折の傷害を負つた。

2  被告河辺は前方を注視せず運転した過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。

3(一)  被告河辺は被告第一生命保険相互会社(以下「被告会社」という)の外務員であり、原告は被告会社の嘱託医として保険加入者の診査(健康状態の診察のこと)に当つてきた。

(二)  本件事故は原告が保険契約者への診察から帰る途中の被告会社の差向けた被告河辺運転の車での事故であり、被告会社の業務中の事故に該当し、被告会社は民法七一五条により原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。

4  本件事故により原告に生じた損害は次のとおりである。

(一) 治療関係

(1) 治療費(石谷外科関係)

原告は、昭和五四年一〇月二六日から同年一二月一〇日まで四七日間自宅で入院治療し、その後昭和五五年四月三〇日まで石谷外科に通院治療したが、原告は治療費として石谷外科に六六万三三二〇円を支払つた。

(2) 治療費(原告関係)

原告は外科医であり自分自身で治療し、その治療費は一一万〇八八〇円である。

(3) 入院費用

原告は四七日間入院し、一日当り七四二〇円の割合による合計三四万八七四〇円を要した。

(4) 交通費

原告は石谷外科へ二四回通院し、その間タクシー代として往復一回当り一二六〇円合計三万〇二四〇円を支出し、また飯塚病院まで二回通院し五二八〇円のタクシー代を支出し、合計三万五五二〇円を支出した。

(5) 機能回復のための治療費

原告は機能回復のため別府へ温泉治療に行き、二〇万円を支出した。

(6) 付添費

原告は四七日間入院し、うち三一日は付添を要する状態であり、一日当り三〇〇〇円合計九万三〇〇〇円の付添費を要した。

(7) 入院雑費

原告は入院中雑費として一日当り一〇〇〇円合計四万七〇〇〇円を要した。

(二) 休業補償

(1) 県の嘱託医としての休業補償

原告は本件事故により昭和五四年一一月から同五五年一月までの三か月間県の嘱託医として稼働できず、一か月二三万二〇〇〇円合計六九万六〇〇〇円の損害を蒙つた。

(2) 桂川町の嘱託医としての休業損害

原告は本件事故により昭和五五年一月まで桂川町の嘱託医としての仕事ができず一回当り九〇〇〇円合計一六回予定されていた仕事の報酬一四万四〇〇〇円の損害を蒙つた。

(3) 諫山医院における休業損害

原告は諫山医院を開業しているが本件事故による昭和五四年一一月から同五五年六月までの休業損害は前年度の同じ月との差額合計三八六万七七九〇円を下らない。

(三) 逸失利益

原告は本件事故により左第四指スワンネツク変形の後遺障害が生じ、左手薬指を十分に伸ばすことができず、これは後遺障害等級一二級に該当し、その労働能力一四パーセントを喪失したところ、原告の昭和五三年度の収入は一九二三万二〇一二円であるから年齢五七歳のホフマン係数により逸失利益を計算すると二一三九万一七六六円となる。

19,232,012×0.14×7.945=21,391,766

(四) 慰藉料

原告が本件事故による入通院により蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料は八〇万円が相当であり、後遺症によるそれは一六〇万円が相当である。

(五) 弁護士費用

原告は、本訴の提起、追行を原告訴訟代理人に委任したが、その報酬として一八〇万円の支払を約した。

よつて、原告は、被告らに対し各自、右4(一)ないし(五)の合計金額のうち三〇七七万八二二六円及びこれに対する不法行為の日である昭和五四年一〇月二六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告河辺)

1 請求原因1の事実のうち傷害の部位は不知。その余の事実は認める。

2 同2の事実は認める。

3 同4の各事実は不知。

4 原告は被告河辺が安全に運転できるよう配慮もしくは注意すべきであるのに話好きのため話に夢中になり被告河辺の脇見運転を誘つたもので損害額を二割減額するのが相当である。

5 原告は被告会社の嘱託医であり、被告会社から往診料診査旅費補助を受給しており本来なら自己の負担と責任において往診すべきところ、たまたま被告河辺が車を運転してきたために同乗したものであつて、しかも原告宅までの帰路発生した事故であるから公平の観点から損害額につき相当の減額がなされるべきである。

(被告会社)

1 請求原因1の事実のうち傷害の部位は不知。その余の事実は認める。

2 同2の事実は不知。

3 同3(一)の事実は認め、同(二)の事実は否認する。

4 同4の各事実は不知。

5 本件事故は被告会社の事業の執行とは関係がない。すなわち、被告会社は自動車の運転を業とする会社ではないし、被告河辺の職務は被告会社の運転手でもない。被告会社は「外勤職員私有自動車業務上使用規程」を設け、外務員が保険募集に所有自動車を使用することは被告会社が承認した場合に限つており、被告河辺は右承認を得ていない。

本件事故当時被告河辺は無免許であり、運転していた車は同被告の父所有の軽四輪貨物自動車であり、本件自動車が被告会社の差し向けたものでないことは原告において十分了知していたものである。

三  抗弁

(被告ら)

1 原告は被告会社から五〇万円、自動車損害賠償責任保険から一二〇万円の支払を受けた。

(被告河辺)

2 原告は被告河辺から四九万四七六〇円の支払を受けた。

四  抗弁に対する認否

抗弁1の事実は認め、同2の事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実は、原告の傷害の点を除き各当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果(第一回)及び同結果により真正に成立したと認められる甲第二号証によれば原告が本件事故により原告主張どおりの傷害を負つた事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  請求原因2の事実は原告と被告河辺との間では争いがない。

成立に争いのない甲第二五ないし第二七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第五号証の六及び被告河辺本人尋問の結果によれば、請求原因2の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  そこで本件事故が被告会社の職務執行中の事故であるか否かにつき判断する。

被告河辺は被告会社の外務員であり、原告は被告会社の嘱託医として保険加入者の診査に当つてきたことは当事者間に争いがない。

原告本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したと認められる甲第一号証、同第九号証の一ないし四、同第一〇号証の一ないし五、同第一一号証の一ないし三、同第一二号証の一ないし五、成立に争いのない甲第二四ないし第二七号証、証人坂野重一、同角田敏郎の各証言及び原告、被告河辺各本人尋問の結果によれば以下の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  保険会社の外務員の仕事は保険契約加入の勧誘、契約締結が職務の中心であり、外廻りの仕事であつて自己の車あるいは電車、バスなどを利用して仕事をし、保険加入者宅へ夜出向くことも多いこと。

2  保険加入者に対する診査は医院診査の場合は外務員が医院へ受診者を連れてくるが、往診診査の場合は外務員が医師を受診者宅へ案内し、これまで原告は往診診査の際保険外務員の車に同乗して受診者宅へ出かけたことも多く、被告河辺運転の車で往診したことも一度あること。

3  昭和五四年一〇月二六日午後一〇時三五分ころ、被告河辺は被告会社の保険に加入した同被告の父の診査をしてもらうため、被告河辺の父所有の軽四輪貨物自動車を運転して、途中集金に立寄つた後原告宅へ迎えに行き、原告を同乗させて被告河辺方へ連れて行つた。しかし、被告河辺の父が酔つていて診査ができず、再び右自動車を運転して原告を原告宅へ送りとどける途中本件事故をおこしたこと。

以上の事実が認められる。

しかし、他方、成立に争いのない甲第二四ないし第二七号証、証人坂野重一の証言により真正に成立したと認められる丙第一号証の一、二、証人坂野重一、同角田敏郎の各証言、被告河辺本人尋問の結果によれば、被告河辺は普通車の免許を持たず、これまでに数回無免許運転で罰金を支払つたこともあり、本件事故時も無免許運転であること、被告河辺の勤務する被告会社飯塚中央支部にマイカーで通勤し、右支部長から注意を受けたことがあること、右支部長は昭和五四年九月被告河辺の無免許運転の件で警察に呼び出され注意を受け、右支部長は被告河辺にも注意したこと、本件事故車は被告河辺の父が仕事や通勤に使つている車であり、被告河辺は右事故車を保険の仕事に使つたことはないこと、被告会社には「外勤職員私有自動車業務上使用規程」があり、右規程は外勤職員が私有自動車を業務上使用する場合には「自動車使用届出書」にて支部長に届け出なければならない旨定め、「私有自動車業務上使用に関する諸取扱について」と題する通達により支部長が使用決定を行なうことが定められているが、被告河辺は右届出をしておらず使用決定を受けていないことが認められ、被告河辺本人尋問の結果中無免許運転を支部長がみのがしてくれた事もある旨の供述は右認定事実に照らしにわかに措信しがたく、被告会社が本件事故車を原告に差し向けた事実は認められない。そして右事実に鑑みると被告会社が被告河辺に同被告の父所有の車の無免許運転を認容あるいは黙認していたとは認められない。そして右事実が認められず、また本件事故が原告を原告宅へ送る帰中の事故である本件においては前項で認定した事実から直ちに本件事故が被告会社の職務執行中の事故であると認めることはむつかしく、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

よつて、原告の被告会社に対する請求は理由がない。

四  そこで、次に被告河辺との関係でのみ損害について判断する。

1  治療関係

(一)  治療費(石谷外科関係)

原告本人尋問の結果(第一回)及び右結果により真正に成立したと認められる甲第二号証、同第四号証、同第八号証によれば、原告は本件事故の日である昭和五四年一〇月二六日から同五五年四月三〇日までの間四七日の自宅入院中(これは原告自身が外科医で自分で開業しており、自分の病院に入院したもの)、石谷医師の往診を受け、その後石谷外科へ二四回通院し、本件事故による傷害の治療を受け石谷外科へ六六万三三二〇円を支払つたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  治療費(原告関係)

原告本人尋問の結果(第一回)及び右結果により真正に成立したと認められる甲第八号証によれば、原告は外科医であり自分でゼラツプ湿布、電気治療を行ない、これらの治療を他の病院で受けた場合には一一万〇八八〇円の治療費の請求を受けることが認められ、右金額は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当であり、医師である原告自身が自分の病院で行ない現実の支払いがないことをもつて直ちに因果関係が否定されるべきものではない。

(三)  入院費用

前記認定のとおり原告は四七日間自宅入院し、原告本人尋問の結果(第一回)によれば他の病院に入院した場合には入院費用は一日当り七四二〇円合計三四万八七四〇円の請求を受けることが認められ、右金額は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

(四)  交通費

本件事故による傷害のため石谷外科へ二四回通院したことは前記認定のとおりであるところ、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告は本件事故により歩行困難なためタクシーで通院し、石谷外科へは一回(一往復)当り一二六〇円を支出し、また飯塚病院へも二度診察を受けに行きタクシー代一往復当り二六六〇円を支出、合計三万五五六〇円を支出したことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(五)  機能回復のための治療費

原告本人尋問の結果(第一回)及び右結果により真正に成立したと認められる甲第八号証によれば原告は松隈医師から勧められ別府へ温泉治療に合計一〇回行き少なくとも一回当り二万円合計二〇万円を下らない費用を支出したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(六)  付添費

原告が四七日間入院したことは前記認定のとおりであり、原告本人尋問の結果(第一回)及び右結果により真正に成立したと認められる甲第二号証によれば三一日間は付添を要し、看護婦免許を持つた原告の妻が付添つたことが認められ、有資格看護婦を頼んだ場合少なくとも一日当り三〇〇〇円合計九万三〇〇〇円が必要であることは容易に推認でき、右金額も本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

(七)  入院雑費

本件事故による傷害のため四七日間自宅入院したことは前記認定のとおりでその間入院雑費として一日当り五〇〇円合計二万三五〇〇円必要であることは容易に推認されるが、これを超える入院雑費が必要であるとの証拠はない。

2  休業補償

(一)  県の嘱託医

原告本人尋問の結果(第一回)及び右結果により真正に成立したと認められる甲第五号証によれば原告は県の嘱託医としての仕事をしており、一か月二三万二〇〇〇円の収入があつたが、本件事故により昭和五四年一一月から同年一月までの三か月間右仕事ができず六九万六〇〇〇円の損害を蒙つたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  桂川町の嘱託医

原告本人尋問の結果(第一回)及び右結果により真正に成立したと認められる甲第六、七号証によれば原告は桂川町の嘱託医として予防接種、検診等の仕事をし、一回当り九〇〇〇円の報酬を受けていたが、本件事故により予定されていた一六回分の仕事ができず合計一四万四〇〇〇円の損害を受けたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(三)  諫山医院

原告本人尋問の結果(第一回)及び右結果により真正に成立したと認められる甲第一五ないし第二〇号証の各一、二によれば原告は諫山医院を開業しており本件事故後応援を頼んで患者の治療を続け、昭和五五年五月ころから治療に支障がなくなつたが、原告の入通院した昭和五四年一一月から同五五年四月までの間前年度の同時期に比べ二七八万七五〇〇円の収入減があることが認められ、他に減収原因の立証のない本件では右金額を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。しかし、原告の請求する昭和五五年五、六月分の減収分については患者の治療に支障のなくなつた後であり、直ちに本件事故との因果関係を認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

3  逸失利益

原告本人尋問の結果(第一、二回)及び右結果により真正に成立したと認められる甲第二号証、同第二八号証によれば、原告は本件事故により左第四指にスワン・ネツク変形の後遺障害が残り、近位指関節が四〇度過伸展、遠位指関節が四〇度屈曲位にて自動不能の状態であり、診察にはさしつかえないものの、手術には支障があり、手術は月二、三例あつたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして外科医にとつては薬指の後遣障害は仕事に影響し、その程度は、右後遺障害が近位指関節については伸縮が可能であるから一指の用廃というより後遺障害等級一四級の末関節を屈伸することができなくなつたものに該当するというべきであるから他に反証のない本件では右後遺障害により原告はその労働能力の五パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。

原告本人尋問の結果(第一回)及び右結果により真正に成立したと認められる甲第二三号証の四によれば原告は事故当時五七歳であり本件事故にあわなければ労働可能と考えられる六七歳までの一〇年間年間一九二三万二〇一二円(原告の昭和五三年度の収入)の収入を得ることができたものと推認されるので右の金額を基礎として後記計算式のとおり前記労働能力喪失割合を乗じ、同額からホフマン式により中間利息を控除して右一〇年間の逸失利益の本件事故当時における現価を求めると七六三万九九一六円となること明らかである。

19,232,012×0.05×7.945=7,639,916

4  慰藉料

前記認定の傷害の部位、程度、入通院期間、原告の入院が自宅入院であること、後遺症の程度及び被告河辺が原告の見舞返しを支出していることその他本件にあらわれた諸般の事情を勘案すれば、本件事故により入通院及び後遺障害により原告が受けた精神的苦痛に対する慰藉料は八〇万円が相当である。

5  過失相殺・好意同乗

成立に争いのない甲第二五ないし第二七号証、被告河辺本人尋問の結果によれば本件事故当時被告河辺が助手席に座つた原告に顔を向けて話をしていたため前に停車中の車に気づくのが遅れ事故になつたことが認められ、原告本人尋問の結果(第一回)中右認定に反する部分はにわかに措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、本件のように同乗者の行為が運転者の注意をそらす結果となり事故につながつた場合にはそれが同乗者と運転者との会話であつても過失相殺の対象とするのが公平である。また原告が被告会社の嘱託医で、被告河辺は本件事故車で原告を迎えに行き、原告を原告宅へ送る途中本件事故をおこしたものであることは前記認定のとおりであり、原告はいわゆる好意同乗者であり、以上総合して損害の三割を減額するのが相当である。

6  損害の填補

原告が損害の填補として被告会社から五〇万円、自動車損害賠償責任保険から一二〇万円合計一七〇万円の支払を受けたこと(抗弁1)は当事者間に争いがない。

なお被告河辺主張の抗弁2につき判断するに、被告河辺本人尋問の結果及び右結果により真正に成立したと認められる乙第二号証の二ないし四によれば、被告河辺は原告の指示により原告の見舞返しを購入し、合計四九万四七六〇円を支出したことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。ところで見舞返しは見舞客の厚意に対する感謝のしるしとしてなされるものであり元来不法行為の損害には含まれず、従つて右金員を立替払しても、慰藉料の算定に考慮されるのは別として、損害の填補にはあたらず、坑弁2は理由がない。

7  合計

前記1ないし4の合計金額から5の割合を減額し、6記載の金額を控除すると七七七万九六九一円となる。

8  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、請求額及び認容額に照らすと原告が被告河辺に対して本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用は八〇万円とするのが相当である。

五  結論

よつて、原告の請求は、被告河辺に八五七万九六九一円及びこれに対する不法行為の日である昭和五四年一〇月二六日から年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、被告河辺に対するその余の請求及び被告会社に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 徳永幸蔵)

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